For A Week



長太郎と付き合うことになって一週間。
その一週間は大していつもと変わりなかった。
休み時間に会うこともないし、昼食を一緒に食べることもない。
放課後部活で会って、一緒に練習をするくらいだ。
休日も部活で会って、帰りに一緒に帰ったが特に何をするでもなく拍子抜けた。
今日もいつもと変わりのない平日を過ごし部活も終わろうとしていた。
「宍戸さん。」
壁打ち練習をしているとき突然長太郎に話しかけられた。
「なんだよ?」
「今日一緒に帰れませんか?」
いつも一緒に帰っているというのに何故か神妙な顔をして言った。
こんな風に聞かれたのは一週間のうちで初めてかもしれない。
いつもは一緒に帰りましょうと断定的に言われていた。
こんな風におどおど聞かれたことはなかった。
「別に良いけど・・・。」
そう言うと長太郎は嬉しそうな顔をして自分の練習に戻った。
今日が約束の最終日だ。
だからあんな心配そうに尋ねたのだろうか。
今日で終わり・・・。
一週間だったが付き合っていたといっても普段とあまり変わらなかった。
本当にこのまま終わりと言うことになるのだろうか?
何もないまま終わって長太郎は満足なんだろうか?
そう考えると寂しいような、物足りないような複雑な気分になった。
でも、前に戻るだけだ。
いつもと変わらない日々を過ごすだけだ。
そう思って複雑な気持ちを振り払い、練習に集中した。

練習終了後、忍足に話しかけられた。
「今日鳳と帰るんやろ?ラブラブやな。」
忍足の横では向日がニヤニヤとしている。
「うっせぇよ。何か用かよ?」
少し睨みつけて返す。
「別に。付き合ってるって聞いたのに全然進展がなそうに見えたんで、心配してあげただけだよ。なぁ、侑士?」
「そやな。お前らほんまに大丈夫か?」
こいつらに心配されるのはなんかむかつく。
それに関係ない話だ。
こいつらはダブルス組んだときからの公認カップルだ。
最初から相思相愛だった二人には俺の気持ちなんてわかるはずがない。
俺は未だに長太郎を恋愛感情で好きなのかわからないでいる。
「お前らが気にすることじゃねぇよ。」
素っ気無く言うと片付けを始めた。
「ま、本人達の問題だからな。俺達には関係ないか。」
向日がそう言って踵を返すと忍足もそれに同意して向日と並んで去って行った。
そのとき二人が悪戯が成功したときのような笑みを浮かべていたことは俺には分からなかった。
片付けが終わり部室に向かう途中、長太郎に出くわした。
「すいません。ちょっと用事ができて・・・すぐに戻るので部室で待っててください。」
「おう、わかった。」
長太郎と別れ、部室に行きシャワーを浴びゆったりとしていたが長太郎がなかなか部室に戻ってこないことに焦り始めた。
もう1時間ほどは経ってると思う。
探しに行こうかと座っていたベンチから立ち上がったときだった。
部室のドアが開いた。
長太郎かと思ったが忍足だった。
「なんや、宍戸。まだ残っとんたんか?」
「そういうお前こそこんな時間まで何してるんだよ?」
「俺は岳人を待っとんのや。」
そう言えば向日の姿が見えない。
「宍戸は鳳待っとんのか?」
「まぁな・・・。」
「それやったらさっき裏庭の方で鳳見たで。」
忍足から情報を得た俺は忍足に軽くお礼を言うとすぐに裏庭に向かった。
そこには、長太郎の姿があったのはもちろんだが更にもう一人人がいることに気づいた。
女のようだ。
後ろを向いているので顔が見えない。
何かを話していたかと思ったら突然二人は抱き合った。
ショックだった。
長太郎から好きだと言われてからまだ一週間しか経っていないのだ。
それなのにもう俺に愛想をつかしたのかと思うと怒りよりも悲しみが込み上げた。
いつも「宍戸さん、宍戸さん」と慕われていたことで長太郎が俺以外のほかの奴を好きになることはないと自惚れていたようだ。
しかし現に今長太郎は女と抱き合っている。
それを見てかなりのショックを受けているということは俺は長太郎のことが好きなのだろう。
長太郎と女が抱き合っているのを見て嫉妬を覚えている。
きゅっと胸が締め付けられ涙が込み上げてきた。
ずっと見ていたら涙が零れそうなのですぐに踵を返し走り出した。
長太郎には何も言ってないがもう帰ろうと部室に向かった。
その途中誰かに呼び止められる。
「こんな時間まで何しているんだ?」
声のした方を見ると跡部の姿が見て取れた。
「別に何もしてねぇよ。」
ぶっきらぼうに返す。
「じゃ、何で泣いてんだ?」
跡部に言われて初めて自分が涙を流してしまっていることに気がついた。
袖で涙を拭うが止まる気配がない。
「何が有ったか知らんが俺様が慰めてやってもいいぞ。」
そう言って跡部は俺を抱き寄せた。
「・・・さんきゅ。」
跡部の行動に驚きつつも今は人の温もりが嬉しかった。
跡部の肩に顔を埋めた。
「宍戸さん!!」
突然名前を呼ばれビクッと肩を揺らした。
今は聞きたくない声だった。
俺は長太郎と顔を合わせたくなくて跡部の背中に腕を回してしがみついた。
「跡部さんすいません。宍戸さんと話したいんでちょっといいですか?」
「宍戸は話したくなさそうだが?」
「俺は話したいんです。」
滅多に跡部に楯突くということがないはずの長太郎が必死になっているのを見て疑問に思う。
何でそんなに必死になっているのだろうか?
どうせ今日で”お試し期間”は終わるのだ。
さっきの女についてのことならほっといて欲しい。
「こんなところで立ち話もどうだし、部室に行くぞ。」
跡部は俺の手を取って部室へと誘導した。
突然跡部と手を繋ぐなんてことになって恥ずかしくなって顔を俯かせた。
手を離せとも言いたかったが今顔を上げたら泣いていたのがばれてしまうので跡部の気遣いが嬉しかった。

「で、何でこんなことになっているのか説明してもらおうか。」
跡部の堂々とした声が部室に響いた。
足を組み腕も組んでいる姿はさすが俺様だなって感じだ。
跡部の向かいに座っている長太郎が最初に発言をした。
俺は跡部の横で長太郎を見ないように顔を背けて座っている。
「俺、宍戸さんのことが好きで一週間付き合ってもらって、今日が最終日で一緒に帰る約束していたんですけど・・・」
長太郎は俺の方をちらりと見ると続きを話し始めた。
「用事があって部室で待ってもらっていたはずなのに戻ってくる途中で宍戸さんが部長と抱き合っていて・・・。」
「宍戸は何で泣いていたんだ?」
跡部が今度は俺に聞いてきた。
「・・・。」
ありのまま言うのは恥ずかしくて口を噤んだ。
「宍戸さん泣いてたんですか!?なんで・・・?」
長太郎に聞かれてまた涙が出そうになった。
俺ってこんなに涙脆かったっけ?
女々しくなったみたいで恥ずかしい。
そんな風に思っていたとき部室のドアが開いた。
「その訳を私達が説明しよう!!」
ふざけた口調で現れたのは忍足と向日だった。







BACK NEXT
07'2/4